2nd semester
工房とビール、最後の展示

最初の展示が終わってからいくつかの練習課題があり、次のプロジェクトに取りかかろうとしていた。もともとプログラム自体は1年のもので、随意で残っている2年目の人達は自分のペースでこつこつと制作し、作家として、あるいは一人の木工家として社会に飛び出す前に大きく息を吸い込んでいる期間のようなものでした。卒業後も頻繁に遊びに来る「3年目」の人もいるくらいの理想郷でもあったけれど、現実は遅かれ早かれ出ていかなければならない所であり、レクチャーがないのならば本来の1年で切り上げて、自分の仕事が少しでも始められる準備をはじめた方がいいんじゃないかと思うようになる。
どういうかたちで木工を続けたらいいのか見当もつかなかったけれど、この頃から帰国後のことをあてもなく考えるようになった。

工房からの眺め。今日も太陽が海に沈む。
夕食も済ませ、もうちょっと仕事するかという頃。

半年も経てばみんなうち解けて、濃密な一年をより濃密に過ごそうとばかりに、週末は映画にホームパーティーやキャンプとイベントも盛りだくさんになっていた。平日の夜にも、クラスの仲間と外でピザやらタコスを食べて、明かりの灯る静かになった工房にまた戻り、自分の作業台でするともなしに仕事をしながら、残っている数人としょうもない話からまじめな木工の話まで、いろんな事を尽きるともなくいつまでもいつまでも話をしていた。そんなリラックスした時間は、今こうして思い返してみても本当に楽しかったし、なにより幸福な時間でした。

そうしていよいよ5月の展示が近づいてくると、夜でも人が多くなってくる。疲労も徐々にたまり始め、こうなったら酒でも飲まなきゃやってられないぜとばかりに、ワンケース24本入6ドル!の安い缶ビールを持ち込む奴も現れ、テンションを上げるために音楽もかかるようになる。夜間の鍵の管理や機械の使い方で助手のデイビットと何人かトラブルもあった。午前中のレクチャーより仕事を進めることを優先させてくれと誰もが思うようになり、時間だけがより貴重なものになっていく。
そしていよいよ明け方まで制作する日が何日か続き、展示の前日に焦りと寝不足のフラフラ状態でギャラリーへの作品搬入を済ませると、地ベタにへたり込むように緊張の糸が一気に緩み、ひなたぼっこでもするような間延びした時間に世界は音もなくひっくり返ったのでした。

展示を前に地元の新聞に掲載される。
Fort Bragg Advocate News Thursday,May,11,2006 より。
一年の総まとめ、ハイライトギャラリーでの展示。

展示も終わり、みんな一息ついた後に、町の大きなホールでカレッジの卒業式があり、木工プログラムの我々も修了証書と一輪のバラを壇上でもらい、天気がいいのでそのまま歩いて工房まで戻り、昼間からしみじみとみんなでビールを飲んだ。これ以上集中した時間を経験したことがなかったし、そのぶん一区切りついた後の虚脱感は確かにあったけれど、何といっても晴れやかな気分だった。

翌週、散らかりきった工房を全員で手分けして大掃除をし、一体どこから集めてきたのか見当もつかないほどたまりにたまった私物を片づけて、ひとまず下宿に持ち帰り、最後にまっさらになったベンチ(作業台)の裏にありがとうの気持ちを込めてサインをした。それから名残惜しむかのように誰彼の家でパーティーがいくつかあり、一人、また二人と減っていった。ガソリンだって、高速道路だってタダみたいに安いアメリカだから、自分のピックアップトラックに作品やら荷物やらを全部積み込んで、気長に国土を横断するようにみんなそれぞれ自分の場所に帰るのだ。せっかくだからどこか旅行でもして帰れよといろんな人に言われたけれど、多少事情の違う僕はまだまだやるべきことがたくさんあった。

インストラクターとクラスメイト。
2006年の顔ぶれ、心からありがとう。
志を同じくする仲間と過ごした日々を、僕は忘れない。
前から3列目、右から二人目が私こと、吉野郁夫。